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2016.10.25
人間の寿命の限界は125歳?? ある統計学的考察

  2016年1014日の朝日新聞夕刊に、「人間の寿命 125歳が限界?」という見出しで、小さな記事が掲載されていました。それによると、米国のアルバート・アインシュタイン医科大学の研究チームが、英科学誌ネイチャーに、人間の寿命の限界を統計的な分析の結果125歳と示唆されることを発表したというものでした。早速、アルバート・アインシュタイン医科大学のホームページを見てみると、以下のような記事が紹介されていました。(http://www.einstein.yu.edu/news/releases/1200/maximum-human-lifespan-has-already-been-reached-einstein-researchers-conclude/)

タイトル:人間の最長寿命はすでに達成されているとアインシュタイン医科大学の研究者は結論付けた。 

 アルバート・アインシュタイン医科大学の研究者たちによりネイチャーに2016年10月5日付でオンラインで発表された研究結果によると、すでに記録された最高齢の人々によって達成された年齢を超えて人間の寿命を延ばすことは不可能であることが示唆されたということです。

 同大学のJan Vijg博士(下記写真)が率いる研究者達は、人間が既にその最長の平均年齢である115歳を達成しており、医学の進歩はさらにそれを延長できる可能性が低いという結論をネイチャーに発表しました。Jan Vijg博士によると、19世紀以来、平均寿命は、公衆衛生、食事、環境、他の分野の改善によりほぼ連続的に上昇して来ました。例えば、1900年に生まれたアメリカ人は平均寿命が47歳であることに比較して、今日生まれた米国の赤ちゃんは79歳近くまで生きることが期待出来ると言います。1970年代から、最長寿命―すなわち最高齢の人々の年齢は上昇して来ました。しかし、アインシュタインの研究者たちによると、最長寿命の上向きのカーブは天井に達したということです。

dr-jan-vijg Jan Vijg, Ph.D.

 Jan Vijg博士は、「人口統計学者だけでなく生物学者が主張しているように、人間の最長寿命の継続的な増加はすぐに終わると考える理由はない。」けれども、「我々のデータは強く、それが既に達成されたことと、それは1990年代に起こったことを示唆しています。」と語っています。

 Vijg博士と彼の同僚は、40カ国以上から集めた死亡率と人口データを統合した人間の死亡に関するデータベースを解析しました。1900年以来、これらの国は一般的に晩年の死亡率の低下を示しています、すなわち個人の出生コホート(すなわち、特定の年に生まれた人の寿命データ)は、誕生した年が大きくなるにつれ、老齢期(70歳以上)で生き残る人が増加しており、これが期待される平均余命の継続的な上昇を招いているとしています。

 しかし、研究者達は1900年以降の100歳以上の人々の生存の改善を見たとき、寿命は約100歳でピークに達し、その後は、生まれた年に関係なく急速に減少することを見出しました。「この発見は、晩年の死亡率の低下傾向は減少しており、人間の寿命には限界があることを示唆している」とVijg博士は述べています。

 さらに、科学誌ネイチャーのHPを見ると、本論文の一部が公開されていました。そこには日・仏・英・米の4か国のデータ(1968–2006年)から得られた最高齢の方が死亡した年の西暦と死亡時年齢の相関図(下図)が掲載されおり、回帰分析の結果が示されています。アインシュタイン医科大学の研究者達は1995年以前は最高死亡時年齢は時代とともに右肩上がりの回帰直線を示しているが、それ以降は右肩下がりの回帰直線を当てはめています。これらの結果から、人間の平均最長寿命は115歳と推定している様です。また、彼らは人間の寿命の絶対的な制限として最長125歳と計算しており、世界のどこに住んでいても125歳まで生きる確率は1万分の1未満であるとしています。尚、図の最頂部に示されている1997年に死亡した仏の女性(ジャンヌ・カルマンさん)は122歳と言う記録史上最高齢であったが、これは統計的外れ値と結論しています。人間の寿命の統計的外れ値というのもなんとなく違和感があり、1995年前後に分けて回帰直線を当てはめているのは、議論のあるところですが、今までなんとなく人間の寿命はどんどん長くなって来ているという風に思っていましたが、この結果を見るとそれは錯覚かもしれないと思われました。実に面白い研究ですね。

nature125yearmax

http://www.nature.com/nature/journal/v538/n7624/pdf/nature19793.pdf