医学・薬学・生命科学などの研究では、複数の群間比較や複数の評価項目について統計学的検定を行うことが少なくありません。しかし、検定を繰り返すと、実際には差がないにもかかわらず、偶然に統計学的有意差が認められる可能性が高くなります。この問題を「多重性(multiplicity)」といい、適切な統計学的判断を行うためには、多重比較に伴う検定結果の補正が重要となります。
1.多重比較では、なぜ補正が必要なのでしょうか?
通常、統計学的検定では有意水準を5%(α=0.05)に設定します。これは、帰無仮説が正しい場合に、誤って帰無仮説を棄却する確率を5%に制御することを意味します。
しかし、複数の検定をそれぞれ有意水準5%で行うと、少なくとも一つの検定で誤って有意差を認める確率が増大することがあります。例えば、互いに独立した5つの検定を行い、すべての帰無仮説が正しい場合、少なくとも一つの検定で誤って有意差を認める確率は、1-(1-0.05)⁵=0.226、すなわち約22.6%となります。
このような問題に対処するため、複数の検定全体について、少なくとも一つの第I種の過誤が生じる確率(family-wise error rate:FWER)を制御する方法として、Bonferroni法やHolm法などが用いられます。
2.Bonferroni法とHolm法の違い
Bonferroni法は、最も基本的な多重比較の補正方法です。例えば、5つの検定を行う場合には、有意水準0.05を検定数5で除した0.01を、それぞれの検定の判定基準とします。計算が簡単で、検定間に相関がある場合でもFWERを制御できるという利点があります。一方、検定数が増えるほど有意差を検出しにくくなる傾向があります。
Holm法は、Bonferroni法を改良した逐次的な多重比較補正方法です。各検定のP値を小さい順に並べ、最も小さいP値から順番に、それぞれ0.05/5、0.05/4、0.05/3、0.05/2、0.05と比較します。ただし、途中で有意と判定されなかった場合には、そこで判定を終了し、それ以降の検定も有意とは判定しません。
Holm法は、Bonferroni法と同様に、検定間の独立性を仮定せずにFWERを制御できます。また、Bonferroni法よりも検出力が低くなることはなく、一般にBonferroni法より有意差を検出しやすいという特徴があります。
3.具体的な計算例
5つの群間比較を行い、補正前のP値が次のように得られたとします。
| 比較 | 補正前P値 |
Bonferroni法による 補正後P値 |
Holm法による 補正後P値 |
|---|---|---|---|
| 比較A | 0.003 | 0.015 | 0.015 |
| 比較B | 0.009 | 0.045 | 0.036 |
| 比較C | 0.014 | 0.070 | 0.042 |
| 比較D | 0.030 | 0.150 | 0.060 |
| 比較E | 0.080 | 0.400 | 0.080 |
有意水準5%で判定すると、Bonferroni法では比較A、Bの2つに有意差が認められます。一方、Holm法では比較A、B、Cの3つに有意差が認められます。
この例からも分かるように、Holm法ではFWERを制御しながら、Bonferroni法より多くの有意差を検出できる場合があります。
4.実際の研究では、どちらを選択すべきでしょうか?
一般的な多重比較において、両方法のいずれも適用可能であり、FWERを制御することが目的であれば、Holm法を優先的に検討することが合理的です。これは、Holm法がBonferroni法と同様の第I種の過誤の制御を保証しながら、検出力の面で不利にならないためです。
ただし、多重比較の方法は、研究目的、比較対象、仮説の構造、主要評価項目の設定などを考慮して選択する必要があります。例えば、特定の比較を優先する検証的試験では、階層的検定手順やその他の多重性調整方法が適切となる場合もあります。
また、探索的研究では、すべての検定に一律の補正を行うことが必ずしも必要とは限りません。しかし、その場合も多重性に伴う偶然の有意差の可能性を認識し、結果を慎重に解釈することが求められます。
結論として、Bonferroni法とHolm法のいずれも適切な多重比較補正方法ですが、一般的には、検出力の面で有利なHolm法を選択することが推奨されます。 もっとも、重要なのは補正方法そのものではなく、研究目的に応じて検定すべき仮説の集合を適切に定義し、解析方法をあらかじめ定めておくことです。
株式会社日本統計技術研究所
代表 医学博士 大槻成章
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